Student Formula Advent Calendar 12/22: チーム内ロストテクノロジーのお話



Abstract

 東京大学フォーミュラファクトリー(UTFF)2002年に発足した全日本学生フォーミュラ大会の参戦を目指すものづくりサークルである.2015年に部員不足による活動休止状態になったのち,2016年に当時の学部一年生によってチームが再発足した.しかしメンバーが学生フォーミュラの経験が全くない一年生のみだけで, OBとのつながりが全くないところから始まったため,マシンの設計製作はおろかチームの運営を軌道に乗せることすら大きな挑戦だった.17回大会参戦プロジェクトでようやく安定した新入生の確保,OBや過去のノウハウとのつながりの確立,また部としてのロストテクノロジーの一つであったターボ搭載にも成功し(?), 少しずつチーム体制が安定してきている. 一度チームが途絶えたからこそ実感した,失われたノウハウや技術の復活の難しさと,逆に過去のノウハウをうまく運用できる制度があることの有難さを書いてみる.


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学生フォーミュラ楽しい!!!!今年ターボ付いたよ!!!!えらい!!!!ほめて!!!!




この記事は学生フォーミュラの現役学生,OB,審査員などの関係者によって12/1から25日まで一日一記事ずつリレーしていくアドベントカレンダーです.


前回の記事はYSNさんによる「学生フォーミュラを愉しむ」でした.



Advent Calendar 12/22日を担当します東京大学フォーミュラファクトリー エンジン担当のあちゃぴぃです.
Fig.1 あちゃぴぃ

本記事ではターボ搭載初年度の話を例に出しつつ, 部内のロストテクノロジーに関するポエムを書こうと思います.



開発内容やその結果はデザインボードや技報,エンジン開発報告書などを見ればある程度分かりますが,その開発結果のグラフとかじゃなくて,(高校生でも読めそうな)もうちょっと語り継ぎ的なノリで一度どっかでちゃんとまとめて残しておかないとなぁ~って思っていたのを原動力にひたすら書いたものなので,興味を持ったセクションだけでも読んでいただければ幸いです.
全部読んでくれたらめちゃくちゃ喜びます,今度お会いしたら飴ちゃんあげます.

某氏が言うように,普段は140字のリストリクターがあるレギュレーションのもと,常にチョークするまで思考ダダ漏れコンプラゼロツイートばっか量産しているところから突然排気量無制限クラスにぶち込まれた身ですので,どんな出力特性になるか全く予想できません.
ヤバかったら赤旗なりオレンジボールなりマスターボールなりサファリボールなり投げてください.



「失われた(ロスト)技術(テクノロジー)」って響きはカッコイイわね


「当時のなんかめっちゃすごい先輩が計算して設計したサージタンク」
「n年前の溶接職人だった先輩が作った排気管やマフラー」
「めっちゃすごいプログラマがいた頃にできた制御コード」
「秘伝のタレ状態のマップ」


ある程度マシンの性能向上につながったため,次年度は別の部分にリソースを割くためパーツを流用し,流用し,流用し...気が付いたら製作者のいた代から年月が経ち,どういう設計思想だったのか,どうやって作ったのか,ひどいときはこれが誰によって設計されたのか,いつごろからあるパーツなのか...
...このサージタンクが金属なのか粘土なのか,それすら我々の科学力では分からないんだ...
みたいなお話は我々の部に限らず多くのチームにあると思います.



例えばチーム復活後のUTFFではもう一度0から車両コンセプトを練り直し,S社のP506エンジンという電子制御CVT搭載のビッグスクーターのエンジンを使用していますが,同じエンジンを使用していたUTFF01~10のころのデザインレポートを見ると:

古代遺跡から出土した古代文字が刻まれた板.当時の重要儀式デンソーカイハツの様子が記されている.文中に現れるマイコンというのは古代の神と推測され,その特性から後述のリアルタイムOS”は古代文明の重要な儀礼で頻繁に使用された祭具であることが知られている.

古代の学生フォーミュラマシンにはソフトクリームメーカーが搭載されていたことを示す貴重な壁画.ちょうどソフトクリームが出てくるノズルの機構と思われるが,なぞに包まれている.

代の学生フォーミュラチームの新年の行事で餅つきに使われていた道具を表した壁画と思われるが,詳細はなぞに包まれている.

などなど,うぉーすっげー昔はこんなことしてたんダーみたいな,開発内容が盛りだくさんです.(これ以上やるとOBに怒られるのでやめます

未だにサーバー(後述)の過去デザインレポートや開発ログなどを見るととてもうらやましいぐらい「いろいろやってる」のです.
同じエンジンを使っていた優勝全盛期のチームメンバーの数とかめちゃくちゃ多かったらしいし,ケタ違いの予算規模でやっていたから,というのもありますが,

そもそも「学生フォーミュラマシンの作り方」の技術さえ失われていたところから私の(チーム再始動後の東大)学生フォーミュラ活動は始まったので,
チームがずっと成長を続けていたら今頃もっと(めちゃくちゃザックリ言うと)「いろいろなことができていた」のかもしれない...と思ってしまいます.



ロストテクノロジー化する原因はそれぞれのチームによってさまざまだと思います.

エンジン変更やスーパーマン部員の失踪・卒業  などなど

直近の東大チームの大きなダメージの原因は部の活動休止・チーム再復活に伴い一度チームの流れがブッツリ切れてしまったことでした.
個別の開発のノウハウだけでなく,そもそものマシンの作り方やチーム運営のノウハウまでもがリセットされてしまい,
同じ「東京大学フォーミュラファクトリー」の名前はあるものの,中身は全く違う,事実上の新参チームとして活動を始めたのです.




長々とを書いているのに着地点は

「やっぱり引き継ぎ・ノウハウを何かしらの媒体で残すのは大事ダネ()」

というフツーの結論になるのですが,



ちょうど我々の代でチームを復活させたころに某偉大なOBが当時の大会レヴューで言っていたように,

「いったん回り始めたチームがチーム立ち上げ時のレベルまで落ち込んでしまうことは本当にもったいないことなのです.」 

なんです,いやマジで. 

,運営が安定しているチームや優勝争いをしているチーム,部員が安定して毎年入っているチームや各パートの連携が上手くとれているチームでもそのチームの技術力がリセットされるのはすごく簡単なことなんだなぁーって身をもって体験しました.

8億回ぐらいいいねしたいと思った某マゾンドキュメンタリーのワンシーン




チームの崩壊や技術が失われる原因などのお話は私よりもリーダー経験の人とかの方が適していると思うので深入りはせず、

築き上げたチームテクノロジーを(1個下や2個下とかの次元ではなく10年後とかの世代に)どう残してゆくのか,我々のチームでの取り組みを,
一人の現役生である私から見てすごく助かった,効果があったと思ったことをいくつか紹介したいと思います.



設計審査会

やっているチームも多いと思います.
東大チームでは毎年大まかな設計方針が決まり,最初のCAD設計案/アセンブリが完成した11~12月ごろに(部内の設計発表会とは別に)OB及びFAを呼ぶ機会を設けております.

ここでは具体的な図面チェックなどではなく,マシンの開発方針の妥当性などについて,過去のノウハウや今の現役エンジニア(OB)としての知見から助言やアドバイスをもらう機会になっています.

日本各地にいらっしゃるOBも気軽に参加できるようスカイプで参加してもらったりもしています.



SlackOBを招待

現在,チーム内コミュニケーションはSlackでやっています.
そこにOBチャンネルを設け,現役生とのコンタクトの場として定着を進めています.

また各パートのチャンネルにもOBにいてもらい,現役生の議論などで煮詰まっているときにOBとしてのアドバイスを気軽にしてもらえるようにしています.特に上の設計審査会では聞けない,細かいことなどを気軽に聞けるという点ですごく助かっています.


現役生だけだとこんなxxxなやり取りをしているSlack




OBからの情報収集は真面目に行います


サーバーで過去データの一元管理

OBの方に過去の膨大な開発録・CADデータ・テスト走行記録・写真や動画・書類などを一つのサーバーにまとめてもらいました.
そこにチーム復活後に運用していたGoogle Driveのデータもすべて移植,また紙上で残っている資料も順次スキャンデータ化,テープなどの映像もデータ化することでUTFFチーム発足時からのすべてのデータを一か所に」集めています.


たとえばこれはP506エンジンのページ
私はサーバー設立に携わっておらず完全にユーザ側になっているのですが,
例えば過去のパワートレインの(10年以上前の!)データや写真・CADがすぐ検索することができ,
OBに直接聞かなくても半分ぐらいの「○○って,昔はどうやってたんだろう」という疑問はすぐ解消されるようになっています.

また,サーバー5Sといって「データは必ずサーバーにまとめる」「データのコピーは禁止」「亜種ファイルの作成も禁止」などのルールを徹底することで例えば


 "Frame_ver12.ipt" "Frame_fh寸法変更.ipt" "Frame_z.ipt" "Frame_zz.ipt" "Frame_08.ipt" "Frame_cca.ipt" "Frame_00.ipt"

みたいにどれがどれかわからないCADデータの山...みたいなのがほとんどなくなりました(所説有)

中には「UTFF○○(△年度大会参戦マシン)試走トラブルまとめ」みたいに,過去のテスト走行でどこが壊れたのか・原因は何だったのか・どう対応したのかをまとめていただいている資料もあったりしてすごく助かっています.

イメージとしては「迷路の先のゴールに理想の完成度の高いマシンがあり,それに行くまでの間の数々の分かれ道のところで,すでにOBが行ってくれたところは「そっちは行き止まりだぞ~」という目印が置いてある」感じです.

またチーム復活から代々続く,(学科のものとは別の)シケプリ/過去問のデータベースもあり試験前などは大変お世話になっております.

以上のような,過去のノウハウをすぐに・簡単に・気軽に参照できる制度が確立できたからこそ,昨年度は実開発人数2名ぐらいでターボチャージャー搭載が実現できました


かたちゅむりをもう一度

かつて同じエンジンに搭載していたターボチャージャーによる過給をもう一度やろうと話になったのは次年度コンセプト会議が終わった10月らへんでした.

我々が使用しているのが所謂ビッグスクーターのエンジンで,リストリクターをつけるとほかのスポーツバイクのエンジンと違いかなり寂しい出力になってしまいます.そんな問題を昔のチームはターボチャージャーを搭載して一気に解決していたので,ならば我々Revive UTFFもターボを載せればいいじゃないか.
ターボでパワーアップをし,電子制御CVTで常に最大出力点で走ると同時に,狭いエコパのコース内でドライバーを煩雑なシフト操作から解放しロスも最小限にする
といったところです.


ターボ搭載の大まかな方針としては:
まず割ける人数が私+電装のYoshiのほぼ二人しかいない.
0から開発していたらそもそも来年(2019)の大会に間に合わない.

なので問題にぶち当たったらとりあえずは過去のレイアウトや機構をそのままパクって次年度マシン実装を最優先にする.って感じで進めました.



幸い,昔使っていたターボがそこらへんに転がっていた残っていたのでそもまま採用.
エンジンはヤフオクで入手した子がいたのでそのまま実験台に.

10,11月にターボ用の排気管,サージタンクなどを作りました.ここの製作のペースは普通のマシンの吸排気製作と同じぐらいでした.(なんで2か月もって,学科生活の合間に自分一人で作っていたので…)

実験台 今見返すとスカポンの位置がおかしいぞ
122日に完成した実験台で始動.
この時はNAレイアウトになんか邪魔なものが生えた程度の状態で,MoTeCのマップもTpos読みのままで辛うじてアイドリングができるぐらいでした.

すぐに発覚したのがオイルライン問題.
エンジンの油圧がかかっているところからオイルをもらってきて,スカベンジポンプでオイルフィラーキャップのところに戻しているのですが,どうも排気管からケムリが出て2ストエンジン状態になってしまう.

過去の開発ログを見ると同じ問題にぶち当たっており解決にかなりの時間がかかっていた.

サーバーのデータやSlackOBに聞いてみたところ,オイルラインにちょっとした工夫で白煙問題を解決していたとのこと.すぐに同様の機構を取り入れることで1週間で解決.


ターボ化したときのマップをどうしようという話になった時も,MAPセンサをYoshi氏がちゃちゃっと配線し,サーバーに残っていたP506ターボで優勝したマシンのものをベースマップとして持ってくることで大幅な開発工数の削減を実現.

1225(クリスマス)には2018年度大会参戦マシンに,それなりにエンジンが回るターボユニットの搭載が実現しました.
年明けてから(2019~)UTFF17Tでいくつか実験,ダイナパックでフレーム・駆動系・エンジン出力軸破損,などなどを経て2019年大会参戦マシンUTFF18には最初からターボチャージャー付のユニットを載せることができました.

結果としてはこんな感じに:
さすがにパワーカーブ全部載せると怒られそうなので...

Revive UTFFのターボ初年度で,同じエンジンでやっていた昔のターボ初年度を若干超えたかたちになりました.
(昔は排気量レギュが違い596ccにボアダウンしていたのを今は638cc純正のまま使っているから…)


同じオイルラインの機構や優勝マシンの点火マップを引っ張ってきたり,
利用できる過去のノウハウやデータをとことん取り入れることで最短時間で実装できたネ! めでたしめでたし




結論ポエム


入部した部活が創立(復活)ホヤホヤ,
先輩もおらず経験者ゼロの一年生だけ,
マシンの作り方はおろか学生フォーミュラっていう異色の活動の進め方すらわからない,
そんな状況でゼロから始めたがくえふライフがどうしてラクだったことがありましょうか.いや,ない.


チームを復活させ,自分たちの作りたいマシンは何か,
今から他大と同じようなマシンを作ろうとしても向こうがはるか先を行っている,
同じようなパッケージで追いつき追い越すには膨大なリソースやノウハウが必要だが我々にはそれがない,
ならば少人数でもでき,東大独自のコンセプトで,
過去のチームのノウハウを参考にできるオリジナルの勝ち方で行こうじゃないか.
といって形になった今のパッケージで,ようやく東大チームも(ひとまずは)学生フォーミュラチームとして再びやっていけるようにはなってきました.

J大がエアロ付きマシンで上位を独占してた時代からエアロを取り入れる大学が増えた中,
同じく大会優勝まで果たせたがその後どの大学も取り入れなかったターボ+電子制御CVTのパッケージの持つポテンシャルを再び信じ,来年も開発を頑張ります.

UTFF01で初号機が走り,UTFF10で優勝するまで9台のマシン.Revive UTFFでサイドエンジンを復活させてから2台ができ,来年で3台目... 見とけよ見とけよ~


以下、本ブログの可愛さ成分を補うため我が家のネコ置いときます


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